最近、ビル・ゲイツ氏の『Business @ the Speed of Thought』という本のことを、ふと思い出しました。アメリカの大学院で最初の学期を過ごしていた頃、授業の中で教授が「読んでみるといいよ」と軽く勧めていた一冊です。
この本が扱っていたのは、「企業の中で情報がもっと自然に流れるようになれば、経営そのものが変わっていく」という話でした。ゲイツ氏はそれを“デジタル・ナーヴァス・システム”と呼び、ざっくり言えば、人の神経のように情報が行き交う組織のことです。メールもデータベースも今よりずっと素朴だった時代に、企業が情報をもっと活用する未来を描いていたわけです。
情報が神経のようにつながる未来の姿自体は理解できましたが、それがいつ現実になるのかはわかりませんでした。技術は前に進むとしても、生活の隅々にまで浸透するには、それなりの時間がかかるのではないかと、当時の私は漠然と思っていました。
ところが、いまの生活を見ていると、そうした未来がいつの間にか日常の中に入り込んでいます。スマートフォンでの調べ物はもちろん、AIが文章や段取りの相談に乗ってくれる場面も増えました。特別に“未来が来た”と感じる瞬間はあまりないのですが、ふと気づけばそれが前提になっている。そういうタイプの変化です。
ゲイツ氏が描いていた姿と、今の形が完全に一致しているわけではありません。ただ、「情報が自然に流れる社会になる」という根っこの考え方は、確かに今の私たちの暮らしとつながっているように思います。あの授業で教授がなぜこの本を紹介したのか、当時は深く考えませんでしたが、今になってみると、あの頃の言葉がゆっくり時間をかけて現実と重なってきているように感じます。